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風が強い夜だった。
今にも泣き出しそうな鉛色の空を背負い、窓辺に佇む彼の姿を、この時期になるといつも思い出す。銀灰色の髪から覗く虚ろな瞳は何処か遠くを見つめ、表情の張り付いた彼の顔は酷く脆い硝子を連想させた。触れる事を躊躇うばかりの自分に憤りを感じたが、それさえも今は懐かしく思える。
執務机に乗せていたランプを手に取り、重い腰を持ち上げる。
そういえば製図に夢中で食事を摂り忘れていたと、今更ながらに気付いた。これでは彼に不摂生だと怒ることが出来ない。苦笑を漏らしながら、角から三番目の細い窓を見やった。
細かい意匠が施された小振りのランプは、広い室内の全てを照らす事は出来なかったが、闇に溶ける彼の姿を浮かび上がらせるには十分だった。暖かな橙色の光が彼の銀糸に反射し月明かりのように輝く。
「その窓は玄関じゃないと何度言えば分かるんだ?」
毎度お馴染みの、諦めも含んだ小言をぶつける。
「いいだろ、手っ取り早いんだから。」
同じくお馴染みの返答が悪びれもなく返ってきた。
当の本人は早々と着ていたマントを無造作に放り投げ、ソファーへと飛び込む。若干軟らかすぎるソファーは彼の身体を優しく包み込んだ。
ひとつ溜め息をつきつつ、傍らにランプを置き、彼の隣へと腰を下ろした。
「せめてノックぐらいしろ。」
普段から気配を消す事が癖にもなっている彼の姿を探し出すのも慣れては来たが、やはり突然の来訪に驚かない訳ではないのだ。
しかし彼は心外だとばかりに口を尖らせた。
「ちゃんとしただろ。そっちが気付いてなかっただけじゃん。」
まぁこの天気じゃ無理もないけど、と付け加える。確かに、叩きつけるような横殴りの風は、ずっと窓をノックしていて、彼のものと判別するのは難しいだろう。
「そんな事より俺腹減って死にそうなんだ。何かない?」
そう呟く彼に続くように、腹の虫が唄う。
その姿に思わず吹き出したが、それが引き金になったのか、自分の腹の虫もつられて共鳴してしまった。一瞬きょとんとした顔で見られたが、すぐにけらけらと笑われた。
冷たい風の音のみを閉じ込めていた室内に、二人の笑い声が響いた。
「俺もまだ食べていなくてな。丁度良い、お前の分も一緒に作って貰おう。今日は以前お前が好きだと言っていたやつらしいぞ。」
今日のメニューは、ふと昔の事を思い出したときに、彼を思いながら自らリクエストしたメニューでもあった。
その時はまさか今日彼が訪ねてくるとは思ってもいなかったが、結果的に良いタイミングであった事に自分を褒めるとしよう。
「マジで!?やった!腹空かせてて良かったー!そうと決まれば早く食いに行こうぜ!」
言うが早いか、ソファーを飛び降りると満面の笑みで扉へと向かう。
そんな彼のくるくると変わる表情を見て、昔の彼と重ね合わせた。脱け殻のような昔の彼とはもう似ても似つかない。その事がとても嬉しく感じられた。
「どうしたんだエドガー?そんなに嬉しそうな顔して。あんたも好きなんだったっけ?」
怪訝な目で覗き込む彼には、きっとまだ分からないだろう。
「そうだな。」
節の目立つ武骨な指を、少し細めの銀の髪へ絡ませ、そのまま頬へと滑らせる。極め細やかな肌の感触と一緒に、暖かな彼の体温が伝わってきた。
「…?突然何だよ?」
「別に?」
されるがままに受け入れつつも、余計不可解だとばかりに視線を寄越す彼に、にっこりと微笑みで返した。
やはり、この空のように冷たい表情は彼には似合わない。
想い出は想い出のまま、二度と繰り返させないようにと誓いを込めながら、未だ疑問符を浮かべる彼の唇に、そっと自らのそれを重ね合わせた。
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私は病んでるロックも大好きですけどねぇぇぇぇぇ!!!!(^o^三^o^)